第3章 三夜
───井の中の蛙大海を知らず
夢見の里は一族の血筋を尊重する為か、極めて閉鎖的な里であった。戦争にも参加せず、禁術や民の能力、当主の類まれなるチャクラ保有量を武器に長年永世中立里としての立場を保ってきた。
白んだ空にカラスが乾いた声で鳴く。
出入門に横たわる死体は鳥や獣につつかれて腐乱臭を放っている。
鎖羅は任務の休みを利用して里へ戻ってきていた。キセイ様への勤行に、賊の掃討を兼ねて。
あの日の夜、裏切り者に反旗を翻され、一夜にして潰されてしまったのも、里全員が平和な日常に胡座をかいていたせいであろう。
鎖羅は焼け落ちた灰を踏む。平和が長年続けば続くほど、容易く崩れ落ちる脆い夢となる。時には痛みこそ正義になる、と────
「誰だ?」
額当てにキズのついた男が焼けた家の骨組みから顔を出す。鎖羅の姿を見ると、目を見張って周囲の忍に司令を出した。
「暁だ!全員散れ!」
建物が全て焼失し、皮肉にも見通しが良くなった景色から何人もの忍が飛びかかる。鎖羅は腰を低く落としコートを腹まで開け、一気にはたいて武器を取り出した。
じわりと手のひらが暖かくなる。破裂音と共に人の影は次々と地に落とされていった。
バン、バン、と乾いた空にこだまする。
左手の骨組みに飛び乗る。下から這い上がり足首に手を伸ばしてきた男の頭を撃ち抜く。着弾した水たまりに血が混ざる。ガクンと落ちていく頭を踏みつけて一気に足へチャクラを集中させる。