第20章 二十夜
黒ゼツは投げかけられたマダラの悪態に対して軽く謝りながらも自らの功績も付け加えて主張した。そうしたやり取りの最中でも、マダラの発する威圧はカカシたちを臆させるには十分で、黒ゼツがゆっくりとオビトの身体から剥がれだしたのに反応するのが少し遅れる。
だが、カカシたちがそれを食い止めるよりも早く、黒ゼツは突き出した頭を引っ込めた。否、引き止められた。
「マダラ……あんたに話がある」
我愛羅と鎖羅が戦闘態勢をとる。しかし、まだ機では無かった。カカシは2人を制止しつつ、オビトとマダラの動向を窺う。
「アンタにとってオレは何だ?」
「クク……長旅でそんなことも忘れてしまったのか?お前は俺と同じ思想と目的を宿した“マダラ”だ。無限月読を成就させるための道を作り、その果てに世界を救った救世主として、お前はマダラとして、天寿を全うするはずだったのさ。まあ、だが……」
マダラの輪廻眼が、血の気を無くした顔で横たわるナルトを一瞥した。
「六道仙人が示したこの世界は、失敗した。」
「……まだ、終わっては─────」
「ここは地獄だ!忘れたのか?!」
その叫びは霆のように空気を叩いた。
「いつからこの現実に望みを持つようになった、オビトよ!いや………お前は俺そのもののはずだ、オビトではない!無限月読によってこの世界をひとつにし、全ての絶望を生み出すチャクラを無に帰す!それを導くのはこの俺だ!そして、今でもお前は救世主のハズだ!」
『───こっちへ来い。』
マダラのその言葉が、オビトを現実を見捨てマダラとして歩み始めたあの日へ引き戻す。
お前はうちはオビトだ。そう言って自分の手を引いたナルトは、今や峠を超えきるところにいる。ナルトの死は希望の破滅。そして、自分を自分として認めてくれた存在の死とは、オビトという自己の破滅でもあるのだ。
マダラはそれを分かっていた。ここにいる全員、戦争へ加わった忍全員がナルトを希望としていて、平和への道標としていたことをマダラは分かっていて、あのようなことを言った。
もう望みは風前の灯火だ。
それならば、新たな世界を作るためにもう一度救世主として代わるのも、悪くないかもしれない。