第19章 十九朝
「皆、印は覚えてますね」
当主は鳩尾に、里長は心臓に、ウズメは腕に、スメラギは頭に、それぞれ手をかざす。
当主の呼び掛けに3人は頷く。そして素早く印を結ぶと、体から蒸気が昇り立つ。
今日と同じ、月が赤く染まった夜のことだった。
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「……はぁ、っハァッ…」
「……どうした?」
びっしょりと寝汗をかいて飛び起きた当主に、里長は駆け寄る。腹の中の子は妙に脈動している気がする。普段とは毛色の違った夢を見たのは、この不幸な赤い月のせいなのだろうか。
「夢を見たわ……“知”よ、書き物をくれるかしら」
すぐさま羊皮紙と筆を差し出すと、つらつらと流れるような筆遣いで印を書出していく。
「これは?」
「夢で扱っていた術の印……戦争をしていたわ。横たわった瀕死の女の子に、私とあなたと、スメラギとウズメが……これを結んでた。」
その言葉に里長の表情がガラリと変わる。
腹の中の子は女の子だ。血が混ざることの無い純血の当主の予知夢は絶対。つまり、いつかは実現する内容だ。
「今すぐ2人を呼ぼう。あと、その術は……一体どんな術なんだ?」
「これは───────
全てを無に帰す」
医療忍者のメスによって鎖羅の腹が開かれる。当主達の術によって出血も止められていた。
───私は忍術との繋がり、あなたは生命チャクラ、スメラギは知恵、ウズメは力
鎖羅に自らが持つ全てを吹き込む……
でも、その代償に一族の血と力は全てキセイ様に返還される。そして、この忍界から存在を抹消される。
「夢見一族は忍界の全てを見通し、その全てに干渉できる神の一族。そして同時に、この忍界に干渉してはいけなかった。生まれた時から、私たちは罪を背負っているのです。」
「一族の血の根絶という形をとって、忍界を本来の姿に戻すのですね。」
「ええ。分家のあなた達にも一族の血は入っている。……それでもこの様な形で最後を迎えさせてしまうのは、本家の私たちの責任でも」
「いいえ、当主様。」
ウズメは当主ににっこりと笑いかける。その目からは大粒の涙を流して。