第17章 十七朝
鎖羅はふう、と息をつき、武器を腰にしまった。
その一挙一動にさえも、女は怯えてビクビクと肩を揺らしている。
「えっと……初めまして」
「ヒッ!」
鎖羅がしゃがんで顔を近づけても、この世で一番怖いものを見たように怯えきっていた。
鎖羅は困り果てた。このままでは話を聞いてくれない可能性がある。なんとか自分は無害だと示したいが、先程まで鬼神のように敵を薙ぎ倒していた様を見られていたのなら無理なことであった。
「貴女を殺すつもりは無いんです。ここは傭兵集団の集会所と聞いていたのですが、貴女がリーダーですか?」
女は無言で首を振る。
「そうですか……。今ご不在ですか?」
「あ、……そ、そこの……」
指を指した先には、口から泡を吹いて倒れている一人の男。顔は手のひらを象った戦化粧に覆われている。
鎖羅は僅かに体を強ばらせた。
この男、あの時確かに自分を犯した男だ。
次々と流れ込む忌まわしい記憶と鼻の奥の青臭い香りを振り切り、鎖羅は男に近づく。
「……ッ、う」
「おはようございます。私のことは覚えていますか?」
「な、ん、ッ……だ」
気を取り戻し、若干焦点の合わない目で鎖羅の顔をまじまじと見つめる。
思い出したのか、先程食らった首筋への手刀と重ね合わせると驚きと笑いが入り交じった表情を浮かべる。
「う、嘘だろ、これ、お前が?」
「はい。」
鎖羅がそう答えると、男は傍らの忍刀を震える手で掴んで構えた。揺れる瞳を静かに見つめながら、諌めるように鎖羅は落ち着いて話す。
「そう慌てないでください、今日は殺すために来た訳じゃなくて、貴方と話がしたかったんです。」
訳が分からないといった表情で、男は鎖羅が懐から書簡を取り出すのを眺める。
そして、差し出された真新しい書簡を受け取り、刀を置いて紐を解いた。