第16章 亭午
空がオレンジに染まり、今日も今日とてへとへとになって修行を終わった。
カカシと別れ、大通りに入った弁当屋で適当に注文する。
嗅ぐだけでお腹が鳴ってきそうな良い匂いを手にぶら下げて、鎖羅は部屋の鍵を開けた。
また変わらない無機質な白熱灯。
直ぐに消し、大窓のカーテンを開く。
ダイニングテーブルに座った鎖羅のシルエットを黄金のひかりが際立たせる。
ガサゴソと弁当を取り出し、橋を割った。
「……いただきます」
まだ温かさの残る白米を一口分取る。
口の前まで運ぶと、手が震えだした。
「う、ッ」
カラン、と音を立てて木製の箸が落ちた。
込み上げてきたナニカを口元でおさえる。
呼吸が荒い。脂汗が浮いてくる。
鼻を通る青臭さと男臭さは嫌に新鮮で、ますます鎖羅の嘔吐欲を増長させた。
もう、いないんだ。
あの男たちはいない。
自分はいま木の葉の里という安全地帯で、信頼出来る人と一緒に修行している。
もう……犯されることもない。ないんだ……。
「……大丈夫、大丈夫」
うわ言のように繰り返し、水道の蛇口を捻った。
銀色のシンクと歌う水流は手を流れ、とても冷たくて気持ちが良い。
鎖羅は広げた弁当を片付けて、冷蔵庫を開く。
その中には同じような風貌をした弁当がいくつも並んでいた。
幾度となく思い出し、未だ克服できていない証。
乱暴に扉を閉め、風呂場へ向かう。