第16章 亭午
カカシの耳元を過ぎた拳は風を切る。
上体を逸らし、足を蹴りあげるが感覚はない。
上手く避けた鎖羅は地面についたカカシの腕へ回し蹴りをする。
しかし、曲げた肘がバネのように伸びてカカシは上へと飛び上がった。
日光に目を細めながら、すかさず鎖羅は印を組む。
「水遁、水乱波!」
鎖羅は口をすぼめ、徐々に勢いを強めてチャクラを吹き出す。花が咲いたように広がった水はカカシを包んだ。
しかし、威力は甘い。
クナイで真一文字に水を切り、カカシは着地すると目にも止まらぬ速さで鎖羅の懐へ突っ込んだ。
「……負け、です」
カカシの構えたクナイの柄が、鎖羅の脇腹に突き立てられている。
くるくると指で弄び、へたりこんだ鎖羅を見下ろす。
「うん、まあ水遁の扱いは凄く良くなってる。」
「何となく流動体のカンジは掴めてきました。」
「それでも今日のはなんだか弱かったな。体調でも悪い?」
カカシにそう問われ、鎖羅の表情は一瞬曇る。
ゼツが突如訪問してきてから日は経ったが、胸元のむかつきは収まらない。まるで身体の内部から心の深いところまでを侵食された様な感覚が続いているのだ。
「…いえ、大丈夫です」
「そっか。ま、水遁の威力調整って特に繊細だし、調子が悪い時もあるよね。」
「最初は弱くして、それから出し切るまでは最大まで強くするんですよね。…もう一回、お願いします」
「はいよ。修行熱心なのは良い事だ」
そうしてまた二人の手合わせは始まる。
ほぼ朝から晩まで、反省と改善、そして実践を繰り返している。
鎖羅は吸収力が良い。何がダメかをちゃんと分かって、それを直そうとしている。
(でも…心がまだ弱いのはどうしようもないかな)
一流の忍は拳を合わせただけで、手に取るように相手の感情がわかる。
カカシは鎖羅と手合わせをする度に、鎖羅の心は未だ足を止めていることを感じていた。