第16章 亭午
とん、とん
トビのつま先は地面を叩く。
仮面も付けずに、暁のコートを身に纏い、ただ目を閉じて玉座に座っていた。
崩壊したアジトの自室の奥にある隠し部屋は、運良く被害は少なかった。
ゆっくりと右目が開かれる。
深紅の写輪眼が怪しく光っている。
「どうだった?」
「………何も思わない」
「その割には随分と殺気立ってるよ」
トビの横から現れたゼツはニンマリと笑う。
「オビト、君、二度も愛する人を守れなくって…なんだか哀れだね」
「愛する人?…ハッ、勘違いするな。オレが鎖羅と交わったのは血を得るためだ。あの行為に愛なんてものはひとつも無い。」
「そう。鎖羅は凄く君のことを気にしてたみたいだけど。心の中でずっとトビさん、どうして、って」
玉座の肘置きにヒビが入る。
振り下ろしたオビトの手袋からじわりと血が滲み出したが、蒸気が発生すると直ぐに血は止まった。
「……お前はなんなんだ。鎖羅が強姦されたことや、今日に至ってはあいつの記憶なんかを持ってきて。」
「いいスパイスだったろ?僕も見たけど、鎖羅はよく生きてられるよ」
「……埒が明かん。もうあの女はオレの計画には必要ない。元より好いてすらいないのだからな。」
オビトは立ち上がり、仮面を付ける。
出口の障子まで向かった背中に、ゼツは嫌味っぽく問いかけた。
「どこに行くの?」
「着いてくるな」
空間が渦巻く。
オビトは忽然と消えていった。
「あ〜あ…鎖羅可哀想だなあ」
「面白半分デオビトノ事ヲ煽ルナヨ。怒ラセテデモシテ計画ニ支障ガ出タラ困ル。」
「昔から素直じゃないよね、オビトって」
ゼツは頭の中で鎖羅の記憶を繰り返しながら、地中へ潜った。
オビトも同じように、鎖羅の苦しみや痛みをひたすら心の中で反芻していた。