第16章 亭午
「ッ、うう」
鎖羅はその様子のおぞましさに思わず尻をついた。スタスタと2本の足で歩いて向かってくる黒ゼツは、鎖羅に突きつけられたクナイを容易く奪い取ってベッドの上に乗る。
「嫌、やぁッ!」
ギシリ、とスプリングが軋む。ベッドの上に座った黒ゼツは鎖羅の手首をまとめる。
体を捻って抵抗するも、白ゼツに腹の上に乗られ動きを封じられてしまった。
確かな男の重みに、鎖羅は思い出す。
あれだけ頑張って忘れようと、封じ込めていたものが一気に溢れてくる。
「精神訓練モ受ケ始メタハズナンダガナ」
「仕方ないって、まだこんなにも子供なんだし」
白ゼツは鎖羅の胸元に走った傷跡を指先でなぞった。
こそばゆさの隙間からおぞましさが覗いている。
くるくると踊るその様を目で追っていると、突如身体の中に指先が沈んだ。
「あ…ッ?!あっ、嫌ッ!うあぁあッ!」
「我慢我慢……すぐ終わるからね……」
白ゼツの身体は指先が沈んだ拍子に、まるで水が入った風船が割れたように形を崩した。三日月に歪んだ目が最後まで鎖羅を見ていた。
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「……はッ!」
鎖羅は飛び起きる。
掛け布団に包まれた身体は、なんだかだるい。
もう部屋にゼツはいない。外は未だ夜明け直後で、ムラのないライトブルーに覆われていた。
胸元には何も残っていない。だが、昨日味わった不快感はいつまでも消えていなかった。