第16章 亭午
鎖羅は鍵を開け、部屋へと入る。
丁度ベッド横の大窓から燃え盛るような夕日が見える。未だ部屋の白熱灯がどうも好きになれない鎖羅は、傍に行灯を置いている。
ぐるぐると鳴り始めたお腹を他所に、まずは汗を流そうと脱衣所へ入った。
すっかり着慣れた忍装束を脱いでいく。
鏡には、手術の時の縫い目の跡や、切り傷がケロイドになった忌まわしい跡が至る所についた身体。
もう、誰にも見せられない。
鎖羅は湧いてくる記憶に蓋をするように、鏡を布で覆った。
幾度と無くあのことが脳裏をよぎることはあるが、体を動かしていれば落ち着いた。
第一、カカシ先生との修行の時に思い出していちいち落ち込んでいては、戦場で命を落としてしまうことに繋がる。
目標のためなら、足を止めているヒマなんて無い。
鎖羅は一通り体を洗い終え、風呂から上がる。
脱衣場の扉を開けた瞬間、視界の隅で緑色がよぎった。
「ッ!」
「あぶな、…ッ そんな警戒しなくても良くなーい?」
「ゼ、ゼツさん…!」
地中から生えだしたゼツは、鎖羅の振りかぶった拳を横に移動して簡単に避けてしまう。
鎖羅はベッドの下へ投げた忍具入れの中からクナイを取り出して構える。
「随分様ニナッタジャナイカ」
「ねー、ほんと…」
グパ、とトゲトゲの外殻を開くと、ゼツの体は正中線で分離していく。
まるで餅のように伸び、ぷちんと切れるとお互いの体は切れ端をずるずると吸収していく。黒と白に分かれ、緑色の外殻は地中へと吸い込まれていった。