第14章 雷雨
「カカシ、さん?」
「あっ…!ああ、すまない」
あの後、なんとか驚きを隠しつつ鎖羅がある病室へ向かった。
体の怪我はもうだいぶ良くなったようで、リハビリも順調らしい。
だが、表情だけは男であるオレをどこかで拒否していて、ぎこちない。
「えっと、それで、この文字は特に私たち一族でも神聖視されていたんです。だから私の名前にも含まれているでしょう?」
「そう、なんだな。俺達には神聖な文字とかいう概念がないから新鮮だよ。」
カカシはざらついた手触りの羊皮紙を膝の上に置き、ペンをとる。公用語とは全く違う字体は、やはり暗記の必要があるようだ。どうりで記憶を無くしていた鎖羅はあの時、所持品の書物を読めなかったワケだ。
「こんなもんかな」
「は、た、け、か、か、し…凄いです!少ししか教えてないのに…!しかもこの文字って結構書くのが難しくて……」
鎖羅がベッドから身を乗り出し、羊皮紙を取ろうとした瞬間、体制が崩れる。
咄嗟に手を伸ばしたカカシは、鎖羅の体を支えるが、直ぐに払いのけられてしまった。
「ご、ごめん、なさい…!!そんなつもりじゃ、違うんです、カカシさんのこと一緒だって思ってる訳じゃなくて、本当に……」
カカシは何も返さなかった。ここで同情などを示してしまえば、事の顛末を知っていることが鎖羅にとって羞恥心や嫌悪感を沸き立たせてしまうかもしれないし、トリガーになって思い出させてしまうかもしれない。
どちらにしても、メンタル的に良い方向には向かわないことは確かだ。カカシは椅子に座り直す。