第14章 雷雨
次の日からリハビリとカウンセリングが始まった。
何日も寝たきりだったのに加え、治療にもかなりの体力を消費したために、少し歩くだけでも息切れが酷かった。
しかし、それよりも更に問題がある。
「……あ…」
壁伝いに歩いていた鎖羅は、突如膝を折り崩れ落ちた。
脳裏に浮かぶ光景が、視界にノイズと共に浮かんでくる。
次は俺だ はやくまわせ
ざわざわと周りがこういった男達の囁きと荒い息遣いに包まれる。
「やめて、やめて、やめて……」
バリバリと耳を掻く。声はやまない。
「…嬢ちゃん、大丈夫か?」
「!!」
肩に添えられた手を、思わずはたいた。
ハッと我に返り顔を見上げると、屈んで心配そうな表情を浮かべた白髪の男性がいた。
下卑た男たちとは違い、すっきりとした目付きに白髪の割には若く見える顔つきが心做しか安心を与える。
「ああ…そうか、嬢ちゃんが」
「ごめんなさい……大丈夫です」
「綱手はどうしてる?一人でリハビリしてたのか?」
「綱手様は五影会談の準備があるとか何とかで朝早くから忙しそうでした」
男性は鎖羅の肩を抱いて立ち上がらせ、休憩室まで向かった。
自来也と名乗るその男性は、とある戦いによって重傷を負い、それ以来病院にてリハビリ生活を送っているらしい。
いつどこで怪我を負ったのかは教えてくれなかったが、怪我をする前はあの綱手様も惚れ込むほどの実力だったと自慢げに語っていた。
「一時はペンも握れぬほどに弱っていたが、今となっちゃあおちゃのこさいさいよ」
「ペン?」
「ワシは作家でな。まあ、嬢ちゃんにワシが書いた本はまだ早いのォ、ガハハ!」
一つに結った白髪がふわふわと揺れた。
「して、鎖羅と言ったか?ちゃんとメシは食うとるのか?」
「……あんまり、です」
口に何かを含む、例え水分補給だったとしても鎖羅はそれが引き金となって忌まわしい行為を思い出してしまうのだ。
点滴で栄養は与えられてるが、綱手は経口摂取することが回復への近道だと言う。