第14章 雷雨
「嫌あッ!!」
ガシャン、と金属の音が響いた。
じっとりと濡れた背中が気持ち悪い。
腕の違和感に気づき目をやれば、点滴が繋がれていた。
窓の向こうは濃紺が広がっている。
真っ白なベッドのシーツは灰青に染まっている。
夜だ。ここはどこだろう。
最悪な夢で感じた最悪な感覚は、身体には残されていなかった。
「……!」
「ぁ……」
「ほ、火影様!」
病室を覗き込んできた女性は、私を見るやいなや駆けて行った。
火影様、ということはここは今木の葉病院らしい。
「鎖羅!」
「綱手、様」
「体は…?どこも痛くないのか…?!」
綱手は倒れた金属製のスタンドを起こし、ダイヤルを回した。この前から集中的に治療に当たっていたため、外傷はもう見受けられない。
しかし、やはり治療で体力は消耗したのだろうか、さほど鎖羅の顔色は良くなかった。
「大丈夫です……お陰様で…」
「良かった……。熱も無いみたいだね。もう少し入院してもらうだろうが、ひとまず安心だね。」
「………」
安心、という言葉が引っかかった。
鎖羅は自らの身体を見る。
もう、傷はない。
起き上がるのも辛くない。
だけど、一生消えない傷が、心に残っていることを確かに感じていた。
「退院、なんかして、私はどうすればいいんですか……?」
「……鎖羅」
「全部……全部失ったんです、守りたかった仲間も、全て……」
綱手は震える鎖羅の手を握る。
そしてただじっと、目を見つめた。
「必ず、私がお前を救い出してみせる。だから今は…身体を治すことに専念してくれ」
「………」
「…大丈夫だ、私がついてる。」
鎖羅の瞳が揺れた。
いつフラッシュバックが出るか分からない不安定な状態の少女を、必ずまた生きたいと思わせてやる。
そう決意を抱いて、鎖羅をだきしめた。