第13章 夕立
「………っ!」
全身がじっとりと濡れた不快感に目を覚ます。身体を起こそうとしても酷い痛みに襲われる。
見上げる空は濃紺に染まり、月が高く上がっていた。鎖羅は滲む光をただぼうっと見つめる。段々と頭は覚醒してきた。
だが、覚めていくごとに日中の惨劇が浮かんでくる。頭の中に広がる水面を、私に背を向けたトビさんが延々と歩いていく。
ぱしゃん、ぱしゃん 水滴がトビさんの歩み毎に跳ねるたび、胸がまるで重石に潰されるような苦しみに襲われる。
トビさんだけじゃない。私がかけた術のせいで失った二人。私を小南さんの元へ向かわせるためにあの場で戦うことを決めた皆。リーダーが遺した私達を守ろうと、ただ一人、単身でトビさんと対峙した小南さん。
なにもかも、失った。また守れなかった。
私が守ろうと決めた大切な人は、全員死んで、私だけが無様に生き残ってしまって
弱い忍者が、一人 ここにいるだけ。
「〜〜〜っぐぅ……うぅ」
私が今感じている痛みは、死んでしまった仲間達の苦しみに比べれば雲泥の差なのに、どうして音を上げてしまうのだろう。
生きている私が、自分の弱さのせいで負った傷。
悔しい。死にたい。守りたいと、失いたくないと、口ばかりでなにも出来なかった自分が恥ずかしい。
鎖羅は這いずりながら水から上がる。その時、足を掴んでいた白く長い生き物が尾をひらひらとうねらせて水へ潜って行った。
カブトがトビに気付かれないように遣わせた蛇は気を失った鎖羅を飲み込みアジトの川まで運んだのだが、鎖羅はそれを知る由もなく、崖に身体を預けてゆっくりと崩壊しかけたアジトの階段を上っていく。