第12章 十二朝
「よくも!!」
クナイを突き出しながら向かってきた女を避ける。ただ闇雲に空を切る様子から、最近組織に入ったばかりの新人だと予想する。
雪に足を取られ、体制を崩した。前に転びそうになったところに鳩尾に膝を入れる。
「ッ、うっ!!」
雪に身体が沈む前に、髪を掴んで顔を上げさせる。女の目の色は恐怖へと変わっていた。
「書簡は何処へ届けるつもりなんですか?」
「い、言うか…ッ!」
「教えてくれれば命だけは助けるつもりです。」
「……!」
「悪い話では…ないですよね?」
目を伏せ、戸惑いを見せる女の言葉を待つ。
躊躇いを残しているかのように、詰まりながら吐いた組織の名前を記憶し、腰から引き抜いた武器を女の額に当てる。
「そッ……そんな!助けてくれるって…」
「組織の一員として任務にあたるにおいて、絶対に守らなければいけない規則は知っていますか?」
手のひらに熱を感じる。
「い、嫌だ!殺さないで!お願い、お願いします……!」
「どんな事があっても自白だけはしないことです」
乾いた音が響いた。
温かい血はまるでかき氷にかける蜜のように綺麗に雪を溶かしていく。
絶命した男のズボンと腹の間に差し込まれていた書簡を引き抜いて、同じように服の間に隠す。
二人の死体の顔に雪をかけ、自分の足跡を消して木に飛び移る。リュックからメモを取り出して吐かせた組織の名前を書き留めてメモをしまう。
長かった。この下っ端に追いつくまで2ヶ月半もかかってしまった。だが仕方ない。長期任務だと元から伝えられていたし、2ヶ月半ならまだ短い方だ。