第11章 十一朝
「……ふふ」
トビは鎖羅の口の端に滲んだ血を親指で愛おしそうに擦った。鎖羅は初めて目にしたトビの素顔に、弓なりに歪む目に、視線を外すことが出来ない。
「あ、……ぅ、待ってくださ、」
忍装束の裾から差し込まれた手を制止しながら、逃げるように体を僅かに滑らせた。しかし、トビは鎖羅の腰に手のひらを引っ掛けて鎖羅の頭の横に腕を置き、覆いかぶさった。必然と顔の距離は近くなる。
鎖羅は目を見開き、顔を手で隠してそっぽを向く。
今まで見られていることなんて意識していなかったから、途端に恥ずかしくなってくる。
しかしトビはそんな鎖羅の心中を知ってか知らでか、隠した手を無理やり引き剥がして布団に押さえつけた。
「み、見ないで……」
「こっち、見て」
トビはかたく瞑られた鎖羅の目元の窪みに軽くキスを落とす。くすぐったいような、気持ち良いような、不思議な感覚に鎖羅はおずおずとまぶたを開いた。
熟しすぎた果実の裂け目から甘い蜜が滴るように、鎖羅の瞳は涙で熟れて、今にもその実が弾けそうなほどだ。トビはその一滴さえも逃さないように、己の右の眸子に捉える。
彼が目を閉じたのと同時に鎖羅も瞳を閉じた。互いの震えるまつ毛が、鎖羅の零れた蜜に濡れて絡み合う。
トビは再度、深く唇を貪る。
荒い息遣いが角度を変える度に漏れる。
先程まで強ばっていたのが嘘のように、鎖羅の体はトビの手に委ねられていた。