第11章 十一朝
「ッ、んっ」
唇が傷から離れる。やっと解放され、視界が晴れた。
仮面を横にずらしてバンドで顔の大半を覆われながらも、口の周りは血にまみれ、ゴクリと喉を鳴らすトビさんに妖艶な雰囲気を感じる。
キスが落とされる。鉄の味が唾液に中和されて流し込まれる。トビさんの舌は信じられないくらい熱くて、恐ろしいくらいの血の味がした。
「ど、んっだけ、…飲んだんですか」
「かなり?」
トビは頭の向こうに手を伸ばし、布団を引っ張る。身体を持ち上げて鎖羅を静かに寝かせると、気づかれないようにキスをしながら外套の襟に手を差し込む。
唇を食んで、犬歯をくい込ませる。粘膜を摘み取って微かに流れ出した血に吸い付く。鎖羅の顔は痛そうに歪んでいる。求愛行動ととってくれれば良いのだが。
「はあ、ッ、い、たい…」
涙を含みながら、反抗的な視線を投げつけられた。鳩尾近くまで開かれた外套の中の忍装束ははだけている。
痛みのせいで気付いていないのか。どちらにせよ、このまま流されてくれれば好都合だ。
トビが手を動かすと、黒く硬い短髪が乱れた。鎖羅は射抜くように見つめてくる二つの視線に驚きを隠せない。
文机が僅かに持ち上がり、バサバサと机上の本が落ちる。