第11章 十一朝
「い、ッ、いたい…!」
広げられた傷から血が流れた。そっと視線を動かすと、鮮血は手首を掴むトビさんの手袋へ染み込んでいる。
吸い取りきれず、腕へと下がる血の筋を親指が止める。そのままつつ、と指先で手首の内側を刺激してくる。妙なくすぐったさと手のひらの痛みが変に混ざりあっていった。
「ボクら好きな人同士、でしょう?」
右肩を抱いていた手が、鎖羅の目を隠す。
突然の暗闇に驚く間もなく、柔らかくてぬめりとしたトビさんの舌が腕から手首を這った。はっ、と熱い息を漏らしながら水音をたてて傷口から流れる血を舐めとっている。
裂けた肉に舌先を捩じ込まれるのがとてつもなく痛い。それ故に、次第に熱を帯びていく傷口周辺が敏感になっていくのを感じた。
トビさんの腕に支えられながら、ゆっくりと身体が倒されていく。目を手で覆われて、まるで赤子のように腕の中に抱かれながら、上げられた左手首をひたすら犯される。
「こういうのも、好き同士がすることなんスよ、知ってました?」
「ン、なの、知らなッ……いた、ッ…!」
「センパイ知らないんだぁ〜…あの本読んでよく勉強してくださいね」
ちゅっ、と傷口にキスを落とされると、そのままじゅるじゅると直に血を吸われる。脱力していく感覚と、血管一本一本に針を通されるような痛みにとうとう耐えきれず、目尻から涙が零れた。
声が詰まるほどの痛み。畳を引っ掻き回すように足は暴れ、身体は弓のように仰け反る。