第11章 十一朝
「目が、目がこっち、を見てくるんです」
「………」
顔は青ざめ、指が震えている。サソリはこの症状に覚えがあった。
針を指し、少量の血液を抜いて薬品と反応させる。しばらく待つと、思った通りの結果が現れた。
「薬の副作用だな。少量ならただの麻酔として働くが多量を吸入すると幻覚作用を引き起こす。中毒性もあるからしばらく使ってなかったんだがなァ……って聞いてんのかオイ」
「本……本が……キセイ様がずっと見てくるんです……物語を……」
薬品棚をいじらせてもいないし、なによりいくら煙が好きだと言っても、鎖羅にそんな趣向があるとは思えない。
脈は安定していることから致死量は吸わされていないことが分かる。禁断症状にうなされているだけのようだ。
サソリは副作用が治まるまで鎖羅の呟きに耳を傾ける。気になるものはメモを取り、そうしていると段々と脈絡のある文が完成していった。
「……あれ、なんで私ここに」
「ちょうど三十分か」
綺麗に整頓されている景色は今まで見覚えが無かった。ただ、落ち着いた声からここはサソリさんの部屋だとわかる。