第11章 十一朝
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同刻、鎖羅の自室。
少なくとも一時間前ほどから丸まった布団はしきりに動いている。
寝付けない。目を閉じてもキセイ様がこちらを静かに見つめてくる。
「ッ……はー」
鎖羅は細く息を吐いた。そしてゆっくりと吸い込む。それでも身体の震えは治まらず、ただ心の底からあの物語を求めていた。
いくら鎮めようとしてもますます酷くなるばかりで、耐えきれず布団を勢いよく剥いで起き上がると、廊下に面した障子は淡い月光をたたえながら目を剥いていた。
「ひィッ…!!」
立ち上がることも出来ず、そのまま後ずさる。
背中に当たった襖がカタンと揺れると、視界の端から顔を覆おうとする手のひらが見えた。
「い、イヤぁ!!」
溺れるように障子に手を伸ばす。障子の目はぎょろりと眼球を動かして追従してきた。
サッ、と血の気が引く。
鎖羅は廊下に倒れ込み、痙攣が治まらない身体を抱いて落ち着かせようとするが、冷えた廊下も相まって更に状況は悪化した。
それでも思考が乱れていないのが救いであった。鎖羅は暁に入って最初の任務が脳裏に浮かんだ。
(そ、そうだ……サソリさんなら、きっと)
煎じた薬草茶の苦味を思い出す。
鎖羅は何とか立ち上がり、壁にもたれながらサソリの部屋を目指した。