第11章 十一朝
木々の葉が風と遊んでいる。
そんな音すらも静かだと思えてしまうほどに、トビの心は穏やかだった。
いや、興奮していたのかもしれない。
気持ちが昂れば昂るほどに頭が冴えていくのを感じる。
トビは聳え立つ岩に歩みを緩めず進んでいく。
指先は接触することも無く、段々と沈んでいった。
「……やはりお前か」
「こんばんは、トビ」
外道魔像の手のひらに座る紫のマントに身を包んだ男は、大蛇を背中から覗かせる。
「僕の研究室はなかなか刺激的だったろう?」
「ああ。お前がどれだけその力を得るのに苦労したかよく分かったよ」
パサリとフードを取った男の、目元から鼻筋にかけての隈取りが歪む。直ぐに鼻で笑えば、丸い銀縁眼鏡のツルを中指で押し上げた。
「……まあいい。今日来てくれたってことは、僕のお誘いにも頷いてくれたってことでいいのかな?」
「ハッ……等価交換という言葉を知っているか?」
「もちろんさ。まずは君の手札から拝見したくてね。」
狡猾な男だ、とトビは内心薄ら笑う。
外套を翻し、彼を地下へと連れていく。