第11章 十一朝
「よく似合ってるわ」
「…!……ありがとう、ございます…」
美しく微笑んだ小南に褒められ、鎖羅は照れくさそうに髪をとかした。
小南は柵から脚を抜いて立ち上がり、コートのシワをさすって直す。
「明日の任務は無しにして明後日まで休暇にしておくわ」
「で、でも、他の人に迷惑が……」
「気にしないでよく休むのが賢明よ。今はあなたの体調の方が心配だわ」
小南は藤色のアイシャドウが塗られた瞼を伏せ、踵を返す。段々とつま先から紙が分離し、身体は水を零したように散り散りになった。
「ッ……ぅ」
小南が去って直ぐに襲ったフラッシュバックに鎖羅は頭を抱えて丸くなる。瞼を閉じていても、景色は見えてくる。
空間の中から、まるで漆喰で固められたように真っ白な肌をした巨大なキセイ様。ゆっくりと長いまつ毛を上げ、光のない瞳を覗かせている。
こちらを見ている。ずっと見ている。
「………ああ」
バッと頭をあげると、空から雲を割ってキセイ様の目だけが見下ろしていた。息づいている。不気味に生気を帯びている。
鎖羅は胸の底から湧き上がる寒気と、何かを求める欲求に恐怖を感じた。自分が自分でないような感覚。確かに、あの時の幻覚を求めている。
「……あっ…!」
雲は、ただ空を流れているだけだった。