第11章 十一朝
「余計な世話かもしんねぇけどよ、あんまりハマりすぎんなよ?必ずこの先戦場で足枷になるぜ、うん」
デイダラは緩んだ包帯を締め直し、鎖羅を部屋から送り出す。
鎖羅は閉められた障子の向こうで動いている影を静かに見つめる。鎖羅の心には、デイダラの言葉が重しのようにのしかかっていた。
手当をしてもらったため、風呂の予定を変更して夢見の里へ戻ることにした。軽く濡れた手ぬぐいで身体を拭き、コートを羽織ってリュックに線香と灰入れを詰め込む。
アジトを出て、里の方向へひたすら疾走る。
鼻先をつついた雨粒は、次第に大粒となって降り注ぐ。じっとりと水分を含んだコートに包まれた体が湿気で蒸し暑くなるのを我慢しながら、やっとの思いで着いた里はあの夜と変わらず、時が止まったままだった。
地面を踏みしめる度に、泥が指先を汚していく。里の片隅にそびえ立つ蔵書室は、所々塗装が剥げて錆びた鉄をこびりつかせていた。酷く重くて硬い扉を引くと、パラパラと錆が落ちる。
(人は入ってない……どうしてあそこに歴史書が?)
中に充満するカビとインクの化合物が混じりあったようなつんとする刺激臭に眉間を痛めながら、本棚にぎちぎちと並べられた背表紙をなぞる。
「あった」
背を引いて、見慣れた表紙に顔を綻ばせた。
父はまだ小さい私を寝かしつける時に、きまってこの児童書しか読んでくれなかった。
すべて暗誦できるくらいになっても、別の本を読んでもらったことは記憶にない。
物語は、世界のはじまりから紡がれる。