第11章 十一朝
「いっったぁ?!」
「な、なんだよ急にデケェ声だすな、って……おいおいおいどうした」
左の手のひらを横切るようにぱっくりと割れた傷から鮮血が滲んでくる。
書類に血の跡は無いので、おそらくあのアジトで机の上の本を触っていた時に何かで切ってしまったのが今になって傷口が開いたのだろう。
血が畳に垂れないよう、服の裾で押さえつける。幸いなことにそれほど深くはないようだ。
「ほら、手貸してみろ」
デイダラさんは何かを染み込ませた綿の布切れで数回傷口の周りを拭い、手際よく手当をしていく。見た目や言動からはまるで想像がつかない丁寧さに思わずじっと手の動きを追っていると、おもむろに口を開いた。
「……そういやさァ、お前とトビって付き合ってんの?うん?」
「え゛っ」
「こないだお前に新しいコート渡しに行こうとしたらよ、お前の部屋からトビが出てきたから……アイツは積もる話だなんだみたいな事言ってたけど。それに“あの任務”の後、結構お前のこと気にかけてるっぽいしなぁ、トビ」
「う、う〜ん………」
返答に困り、鎖羅は唸る。
付き合っているかと聞かれれば、はいそうですとも言えない関係だし、だからといって好き合っていない訳では………ないと思う。
「結構デイダラさんて、その、割と鋭いというかなんというか………」
「鈍感だってバカにしてんのか?オイラだって男だから同性のそういう雰囲気にはすぐ分かるんだよ、っていうか、露骨に首にそういうの付けられちゃ誰だって気づくだろ!うん!」
「えっ?!?く、首?!?」
あの時意識を手放す前、トビさんに首に吸いつかれたのを思い出し、ハッとして首元を隠した。
「いや遅ぇ!」
「み、見ないでください!!!」
跡を擦って消そうと無駄な行為を続ける鎖羅に、デイダラは疲れたように息をついた。