第11章 十一朝
テーブルに押し倒され、トビを見上げた瞬間、鎖羅の顔は水に濡れる。手にした湯のみを傍らに置くと、トビは仮面を横にずらした。
目元のくぼみに溜まった水が目じりへ流れる。
引っ掛けられた冷たい水は、鎖羅の体温とトビの体温に混じりあってぬるく口元を濡らす。
トビはじゅるじゅると音を立てながら乱暴に舌を吸い、鎖羅の唾液と共に流れた水を飲んだ。
「んっ、ぅ……トビさん、トビさんっ、コート、濡れちゃいますって……!」
「ハハ……うるさいなぁ」
コートと鎖羅の肩の隙間に手を差し込む。じっとりと濡れた手袋の生ぬるさに身体を強ばらせる。急に纏う雰囲気が不穏なものに変わったトビに、鎖羅は不安を隠せないでいた。
「ボクの事好きなんスよね?」
「べ、別に、イタチさんも他意がある訳では無いですよ、そんな、コート借りたくらいで……」
「……そうッスよね。アハハ!ちょっと大人気なかったッスか?すいません!」
パッ、と身体が離れ、鎖羅は身の自由を与えられ、ずり落ちたコートを直す。内心、違う意味でドキドキしていた。態度が一変した様子に未だ不安を抱きながらも、いつもの調子に戻ったトビを見て、鎖羅は胸を撫で下ろす。