第11章 十一朝
静けさが落ちた台所は、無性に寂しさを感じる。
以前までは茶を淹れに来た人や、夕食の下ごしらえをする当番の人など、誰かしらはいた。皆がみんな同じ時間に任務から帰って来れる訳でもなく、深夜に出発したり、生活のリズムだって人それぞれだった。眠れないならば酒をあおる人だっていた。
今は誰もいない。人数分の湯のみがただただお盆の上に切なく並べられている。
鎖羅はその中から自分の湯のみを手に取り、蛇口を捻って水を汲む。この修練の洞窟のそばの川から水道を引いているためとても冷たいが、優しい口当たりですんなりと体内へ下って行った。
帰ってくるとは分かっていても、やはり寂しい。第二の家族のように感じていたので尚更だ。一人欠けてしまったが、早く皆でまたアジトに居たいと思う鎖羅は、とても来週が楽しみだった。
「そのコート、誰のッスか」
「ひッッ!」
手から滑り落ちた湯のみを慌てて掴み直せば、背後からヌッと腕が身体に回される。引き寄せられて身動きが出来ない。必死に手を伸ばして、テーブルの中央に湯のみを置いた。
「私のコート、まだ貰ってなかったのでイタチさんが寒そうなのを見かねて貸してくれたんです」
「…………」
トビさんは何も話さない。がっちりとした腕をやんわりと掴み離そうとするが、くるりと身体を回転させられると、そのまま背後の机に詰め寄られる。
並べられた湯のみに腕が当たる。頭に響いた高音がついに目を覚まさせた。