第11章 十一朝
トビはゆっくりと身体を倒し、鎖羅を見下ろす。酸素が回りきっていないのか潤んだ目は不安げにトビをうつしだす。
「息してもいいんスよ」
「ぜ、全然わかんな、ッん、ッ」
トビの唇が微かに鎖羅の唇に触れる。
だが貪り合うことは無く、口先を付けたまますりすりと撫でた。過敏になった感覚のお陰でズクズクと腰が疼く。
その様子を察してか、トビは口付けを深くしながら、鎖羅の腰のくぼみを捉えると、指先で優しく押した。
「んッぅ?!」
感じた事の無い刺激が背筋を登る。
腰を押されているだけなのに身体がゾクゾクと震え上がってしまう。たまらずトビの胸板を押しのけ、唇を離すが体は離れてくれなかった。
「ぷは、っ!」
「センパイ、あの時の答え聞かせてください。ボクのこと、好きですか?」
「う、う……ず、ずるいですよ!」
「ずるくない」
顔を覆う手首をつかんで畳に押し付ける。若干身体が強ばってはいるが、心から抵抗している訳では無いようだ。
「ね……好き?」
「ッあ……は、ぅ……」
耳元で深く囁いて、汗ばんだ首元をぺろりと舐めあげると一気に吸い付いた。
「す、すき、好き……」
鎖羅の震える声にトビはゾクリと身体を高ぶらせる。そしてちゅ、と唇を離した瞬間、掴んでいた手首は急激に力を失った。突然の異変にトビは起き上がって鎖羅の顔を見る。頬は真っ赤に上気し、濡れたまつ毛から溶けた瞳が涙を流していた。
「………ッハァ〜……」
規則正しい呼吸を始めた鎖羅にため息をつく。部屋の隅にたたまれていた布団を出し、優しく寝かせた。落とせただけでも収穫だと言い聞かせ、トビは己の昂りを静めるように面を戻した。
「……ん?」
こぼれ落ちたリュックの中身をしまい込んでいると、一冊の医療書が目に留まる。
「“情動脱力発作の症状とその症例”……?」
ペラペラと最初の数ページを流し見する。チェックリストのようになっているページでは、正しく鎖羅のような項目がひとつあった。
─なるほど、この娘がよく寝こけてしまうのは歳の幼さのせいでは無かったか。
夢見一族のデータを洗い直す必要性を考えながら、巻物を懐にしまい込んだトビは障子に手をかける。