第9章 九夜
トビは僅かに開かれている唇を撫でる。
ふにふにと弄べば、年相応の柔らかさを感じた。
「………っう」
パッと手を離すと、鎖羅がしんどそうに目を覚ます。痛みで動けないのが、眼球だけが当たりを見渡せば、トビを見た瞬間に表情が綻んだ。
「トビ、さん……」
「遅れてすいませんッス。サスケくんの方に行ってまして」
「大丈夫です、よ」
鎖羅が目覚めると、デイダラとサソリも目を覚まし、満身創痍のお互いの姿を見て笑いあった。
「旦那、ひでぇ姿だな」
「チッ……調子乗んじゃねェよ」
「ハハハ……」
鎖羅はそんな様子を見ながら、目を細める。すると突然、何かを思い出したようにゆっくりと身体を起こした。
「ダメッスよ動いちゃ!」
「角都さん……角都さんは?」
トビは一瞬黙った後、おずおずと治療所のテントの奥を指さした。嫌な予感を感じながら、鎖羅は顔を向ける。そこには、顔に布をかけられている包帯まみれの角都の身体と、傍に横たわるそれ以上に包帯まみれの飛段がいた。
鎖羅は痛む身体をものともせず、這いつくばって二人に近づいた。
「飛段さん………その」
「何も言うなよ」
「で、でも、私を守って」
「コイツもジジイだったからよ……きっとお前のこと孫みたく思ってたんだぜ」
鎖羅は顔を伏せる。罪悪感に苛まれる身体は震え、ただ角都の最後の瞬間だけがフラッシュバックしていた。
「ったくよォ、俺の相方見つけんの苦労すんなァ……だろ……?角都……」
傷だらけのメンバーたちは、二度と動くことの無い角都と、笑みを浮かべながらも目尻から涙を流す飛段をただ見つめていた。相方を失うこと───以前までなら、何も思わなかったかもしれない。だが、平和という目的のために力を合わせて戦い、命を落とした角都に、そこにいる全員が尊敬の念を抱いていたのだ。