第9章 九夜
「ちょっとォー!空けて空けて!重傷人ッスよォー!」
「うわッ!な、なんだお前!」
トビは鎖羅を抱き抱え、緊急集中治療所の受付を次々と押しのけていく。人外揃いの暁の為に特別に作られた治療所のようで、里の手練の医療忍者たちが治療に当たっていた。
「みーんなボロボロじゃないッスかー!全く、ボクこれでも結構期待してたんスよー?」
「お前ッ!治療所では静かに…ッ」
綱手は傷だらけの鎖羅の姿を見ると、慌ててトビに駆け寄り状態を確認する。
「良かった…まだ息はある……。お前、無傷なら仲間の治療を手伝え!ただでさえ人が足りんのだ、その気味の悪い仮面を付けていても手当の仕方は心得ているだろう!」
「えぇ、ボクが?」
ガチャガチャと包帯や消毒液を押し付けられ、トビは困惑しながらも簡易ベッドに寝かされた鎖羅の体に手当を施していく。
16歳の少女には似つかわしくない傷が全身に散らばっている。表面の傷でもこれだけのものなら、骨や筋肉はさぞ酷いものであろう。
(故郷でもない里のために、よくもここまで…)
周囲に寝かされている暁のメンバー達にも言えることだった。かつては世界へ牙を向いた筈であるのに、ここにいる者たちは全員命をかけて戦った。イタチも、鬼鮫も、ゼツもそうだ。
足を踏み入れる資格がないと言い、作戦を抜けたイタチ。いち早くペインの動きを察し、単身でナルトへ危機を伝えに行った。
鬼鮫はゼツと共に木の葉の里の動向を伺いながら、木の葉の危機に便乗して里へ乗り込もうとした他里の忍たちを返り討ちにしていた。
誰もが、この里を守ろうとしていた。
一人の少女が、直接的に一癖も二癖もある犯罪者の心を動かしたのではない。
それぞれが己の気持ちに従い、そして偶然、足が同じ方向へと向いたのだ。
暁の改革。終わらない夜の夜明け。
今までバラバラの方向を向いていた彼らの道は、今ここで交わりあった。