第9章 九夜
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鎖羅は自らの視界がだんだんと真っ赤に染まっていくのを感じる。
だがその出血量とは裏腹に、体の痛みはなく、そのまま膝から力なく崩れ落ちた。
「………どうして」
「ゴフッ……」
角都の口布は次第に血が滲みだす。胸を貫いた黒い棒がペインに引き寄せられると、抜かれた瞬間に傷口から血が吹き出した。
鎖羅は倒れた角都を抱き寄せ、深緑色の瞳を覗く。もう既に焦点が合っていない。震える手は次第に体温を失っていった。
「…あいつに向ける…顔がない………な…………」
「そ、うですよ……まだ、まだ」
「だが………満足だ………鎖羅、お前なら、きっと…………」
「角都さん………?角都さんっ!!!」
最後に鎖羅の顔を見ると、そのまま眼球は動かなくなった。
「……………どうだ、鎖羅」
ペインは角都の亡骸に縋り付いてピクリとも動かない鎖羅に歩み寄る。
「これが、痛みだ。」
「………………」
「この痛みは世界を変える。復讐の連鎖を止め、未来永劫の平和へと歩み出すのだ。」
鎖羅の頭を掴み、上体を引き上げる。
光を失った瞳はもうペインを見やることすらしない。掌底を額に当て、そのまま語りかけた。
「思い返してみろ。昔も今も、所詮お前は守られるだけの子供だ。あまつさえ仲間を無駄死にさせ、多くの思いを踏みにじり……ついには俺に殺される。」
「ふざけるな……」
「!」
眼球はギョロリとペインを睨みつけた。
「無駄死になんかじゃない!!みんな、私のことを……この里のことを信じて、戦ってくれた!!誰がお前に殺されるものか!!」
ホルスターから武器を引き抜くと、チャクラ弾はペインの両膝を撃ち抜く。ペインはガクンと折れた膝をかばいながらすぐさま手を離し、後ろへ退いた。