第9章 九夜
「ぐぁあ…ッ!!」
「急所をずらしたか……」
ペインの手が鎖羅の左肩に触れる。
伸びた棒がじりじりと身体を貫通していく痛みは耐え難い。
宙に浮かんでいたペインは、体を倒して肩に触れている腕を真下に突き下ろす。そのまま地面に突っ込むと、鎖羅は杭に打たれたように這いつくばった。
「粛清の時だ……」
ポキンと棒が折れた手からまた新たな棒が生え出す。鎖羅は後ろからヒシヒシと感じる殺気にこの場を切り抜ける手はないかと思考を巡らせた。
「!」
骨が軋む音が響く。角都が回し蹴りをペインに食らわし、地面に磔になっている鎖羅から棒を引き抜いた。
「す、すみません…」
蹴り飛ばされたペインは、以前よりも色濃い殺気を放っている。
それからペインは次第に減っていく二人のチャクラと反比例して、ますます力を増していった。気づけば角都の心臓は残りひとつとなり、命の懸け合いに慣れていない鎖羅の心には次第に“諦め”が蔓延している。
(………どうして、戦っているんだっけ)
思考は既にまともではない。
傷ついた己の身体も、胸の痛みも、脱力感も、自分のものではない感覚に襲われていた。
自己との解離。窮地に立たされた人間は逃避行動として意識を切り離す。
忍としての訓練をまともに受けたことの無い鎖羅は、この行動をコントロール出来ていなかった。
「鎖羅!!!」
霞んだ視界は一気に解像度が上がる。
角都の声にハッとすると、だんだんと放たれた黒いチャクラ棒が飛んでくるのがゆっくりと見えた。
死
この一文字が頭に浮かぶ。
完全に身体と切り離された自分の心は、ただ危機を訴えるのみ。
指先ひとつ動かすことも出来ず、鎖羅はただ鈍く光る棒を見つめていた。