第9章 九夜
鎖羅はサソリの操作に身を任せ、眼前に迫る男の顔を見据えた。ふわりと身体が宙に舞う。右脚が男の頭を捉えた。蹴り落とす。くるりと身体は一回転し、左脚が揺れた男のうなじを捉えた。蹴り落とす。宙に浮かび続ける身体は幾度となく回転を繰り返して男の踵に至るまでを蹴り落としていった。
まるで弾丸に撃たれたかのように見えた攻撃の中、デイダラは倒れそうになる身体を支えるために男が1歩踏み出したのを見逃さなかった。ビュッ、と小さく鋭いくちばしを持った鳥を放つ。踏み出した足の甲に真っ逆さまに突き刺さった。
「デイダラァ!」
掌の口が弧を描く。
まるで発射台の様に鳥達が空に浮かんだ。
人差し指と中指を揃え、印を結ぶ。
鎖羅の回転にも負けないくらいの速度で急降下し、男の身体のあらゆる場所を貫通していった。
「動きは止めた!」
鎖羅の身体は地面へ串刺しになった男の目の前へ降りる。サソリが腕を振る。鎖羅の両腕は武器を構えた。
鎖羅は両手にチャクラを集中させる。
従来のままでは小さかった水弾は虎の頭まで到達すると、そのチャクラに呼応してどんどん丸く肥大化していく。
「操演・人見冴功!!」
虎の口から二つの弾丸が発射される。
水弾の高速さを保ったまま男の腹部に着弾すれば、そのまま染み込むように体内へ吸い込まれていく。皮膚の至る所から筋のような光が漏れだした。そして、男の身体はボコボコと沸騰していく。
三人は耳を塞いだ。
鼓膜が破れそうな破裂音とともに、男の身体はひとつも破片を残さずに弾け飛んだ。
サソリは腕を振り、鎖羅を引き戻す。
「即興にしちゃあ上出来だったんじゃないか?うん?」
「まあ……そうだな。」
鎖羅は満足気な二人を見つめる。
胸の底から湧き上がるのは、とても大きな喜びだった。
そして、会心の笑顔を見せて言った。
「ッ……二人とも、大好きです!」