第9章 九夜
豪水腕で巨大化した腕が男の腹を撃つ。衝撃波は辺りに亀裂を作っていった。
「!」
力が抜けるような感覚に、一気に身を引いた。どうやら術を吸い込んでいる訳ではなく、チャクラに変換して吸収しているようだ。
(体格に差がありすぎる…!私の力でまともに戦えるか……)
鎖羅は細く息を吐く。
低く腰を落とし、構えの姿勢を取った。
男が踏み込んだのを合図に、一気に地面を蹴り走り出した。
「……ッ!!」
振りかざされた男の右腕が、鎖羅の左腕を打った。肌がぶつかる音と共に、骨が軋むのを感じる。一発一発が重く、まともに受けてしまえば致命傷になりうるだろう。
衝撃を受け流した身体は右に逸れ、鎖羅は地面に手をついて足を空へ投げ出した。左脚が男の顔面に直撃する。一瞬身体がよろめいたのを見逃さず、瞬時にチャクラを集中させてそのまま蹴り飛ばした。
ガタイのいい男の身体は瓦礫の山へ叩きつけられ、土煙が舞う。
「…………」
風が強く吹いた。撒かれた煙のうちから、後ろにひしゃげた首をゴキンと起こしながら男が現れる。
「ッ!?」
鎖羅の顔に影が落ちる。目を細めて上を見れば、人が逆光を受けて黒い影となり落ちてくる。印を結んだ動作を見せれば、真っ赤な火球が鎖羅へ飛ばされる。
鎖羅も印を結び、胸が大きく空気を含んで頬が膨らむ。突き出した唇は細く水の筋を吐き出し、そこから次第に広範囲へ水の盾は広がっていく。しかし、威力は相手の火遁の方が強く、高熱の蒸発熱が鎖羅を取り巻いた。
「あつッ……!!」
ばしゃんと水の盾が落ちる。眼前に迫った炎に咄嗟に受身を取るが、体を焼くことは無かった。