第9章 九夜
あらゆる建物は崩れ、人々は逃げ惑っている。
ペインは空からただその様子を見据えていた。
結界を破った六道たちが今頃里を駆け巡っている頃だ。そして、あと数刻もすれば仲間たちもくる。
───すぐにこの里は戦火に呑まれるだろう。
『陽動は成功した。それぞれ担当場所を確認し、手順通りに里へ侵入しろ』
思念波をメンバーへ送り終え、地爆天星で作り出した塊の上へ浮かぶ。ふと里の出入口に目をやれば、よく見知った姿が餓鬼道と戦っていた。
ペインは僅かにチャクラを乱す。そして、地に向けて手をかざした。
「ッう、ぐぅっ……!」
「ニナさん!!」
突如息が詰まるような苦しみに襲われ、首を抑える。次第に身体は空中へと持ち上がり、まさに誰かに首を掴まれて吊るされているような感覚に陥った。
「カハッ……!」
「鎖羅……やはり逃がしたか」
─────ドクン。
ニナの脳が揺れ、視界が揺れ、頭の中を何かが這いずり回るような気持ち悪さに襲われる。薄紫の波紋がニナの眼を捉えた。輪廻眼。見間違えるはずがない。
ビキ、と突き刺すような痛みが一瞬脳髄を突き抜けた。ニナ、鎖羅、二つの存在が混じり合い、記憶の合致、帰還、定着。
全て思い出した。
「ッ……リーダー…!!!」
フッ、とかざされた手が下に降ろされる。それに追従するように、鎖羅の身体は宙に漂っていた地面の破片に叩きつけられた。
痛みに耐える暇もなく、破片を背に、真っ逆さまに地上へと落ちていく。虚ろな目には地から吹き出した水が映し出されている。それはクレーターに溜まり、深い湖を作っているようだ。
「………ッ」
大きな水柱と共に、地の破片で重しをされるように深く水中へ沈んでいく。ごぼごぼと口から空気が漏れる。様々な記憶が駆け巡る脳内では、いつかの赤い髪が揺れていた。