第9章 九夜
ニナの閉じられている右目の瞼を左手でこじ開ける。
グッと顔を近づけ、写輪眼で深淵を見据えた。
ビクンと身体が揺れ両目は開かれる。しかし起きてはいない。今ニナはカカシのかけた幻術の中にいる。
首と膝の裏に手を回して持ち上げる。病室の窓を開け、里を一望し、地下牢がある所への人目につかないルートを確認すると、一気に飛び上がった。屋根伝いに素早く移動し、カカシの背丈の二倍ほどある柵に囲まれた、灰の無機質な建物の前に着地する。
「カカシさん、その子ですか」
「ああ。特別拘束室だ」
「はい。こちらが鍵になります」
入ってすぐの受付の忍から鍵を受け取り、暗い監獄内を下っていった。着いた先は、広々とした広間。顔をあげれば壁一面に張られた格子が目に入る。
「……見張りはいないのか?」
返事はない。
格子の鍵を開け、ニナの拘束を解いて、代わりに左右の壁にぶら下げられた手枷を取り付ける。鎖で腕を左右に引っ張られた彼女の姿はまるで磔にされているようだ。
カカシは手枷の鍵を指先で撫でる。数回手の内に握り込み、パッと開かれると同じ形のものがもうひとつあらわれた。土塊の合鍵を威力を弱めた火遁で一気に焼き上げると、多少色あせているものの全く遜色ないスペアが完成する。
それを胸元のポーチにしまい、拘束室を後にする。