第9章 九夜
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朝から火影の執務室は重苦しい空気に包まれていた。綱手は持っている書類を乱雑に机に叩きつけ、ため息をついた。
───火種は潰しておく方が賢明だ。だがナルト達と変わらない年齢、ましてや記憶すら無くしている娘を殺すなど私には……ッ!
「火影様」
「……カカシか。」
火影の表情から全て悟ったカカシは、緊張からか拳を握る。
「明日の昼に決まった。拘束して地下牢へ連れて行け。」
「…………わかりました」
「カカシ…………、すまない」
「いえ」
心苦しいのは誰だって同じだ。だが彼女が犯罪者であることを忘れている訳では無い。それでも、大人である二人にとっては忍であってもこれから子供が殺されるという事実には耐え難いものがあった。
病室に入ると、まだ寝ているニナの傍にサクラが座っている。その背中はどこか不安そうだ。
「…!カカシ先生」
「明日の昼に決まった。今から地下牢へ連れていく。」
「………はい」
悲しそうな表情を一瞬見せるが、それを取り払うと1人の“忍”の顔になる。起こさないように管を取り外し、腕を胸の前に組ませて布を巻く。それを縦にベルトで締め付ける。
「サクラ、お前は先に帰ってて良い」
「で、でも」
「見たくないだろ?」
忍の顔が崩れる。この数日間、彼女の傍に一番多くいたのはサクラだ。同じ女の子として、同じ年代として、少しでも絆を感じる事もあったのだろう。一人の患者ではなく、人間として接することが出来たのも大きな成長だとカカシは実感する。
サクラが病室から出るのを確認すると、額当てをずりあげて左目を見開いた。瞳孔目掛けて3つの勾玉は巴を為す。