第8章 八夜
「ね、ニナさん!今からあの顔岩、もっと近くで見に行かない?」
サクラは少女に取り付けられた管を外していく。ニナはベッドから降り、若干ふらつきながらもサクラに着いていく。
外の木の葉は、様々な年齢の住民たちが散歩をしていたり、店の呼び込みやビラ配りなど、活気に溢れていた。
大通りは顔岩へ通じ、その前には火と書かれたオブジェを屋根の中心に設置されている赤い建物がある。
「サクラちゃん!お友達かい?」
「はい!あっ、帰り寄りますね!」
「はいよ!今日の寒天は最高傑作だよ〜!」
「ホントですか!楽しみにしてまーす!」
サクラは話しかけられる人全てにニコニコと対応している。どうやら里の中では広く顔が知られているようだ。
顔岩が彫られている崖に沿って、階段が取り付けられている。最上部まで登ると、里を広く見渡せた。
「広い……!」
「一応五大国の中で一番大きい里なのよね。よく小さい頃はあそこの森で迷子になったりとかしたわ〜」
サクラさんは手すりに手をかけて、里の地平線を望む。沈み始めた夕日が里を見下ろしている。
オレンジに染った建造物、夜を告げるカラス、夕飯の匂いに鼻を鳴らしながらかけていく子供たち。
ニナの目に映るのは、木の葉の住民にとってはいたって普通の日常であった。しかし、今はその全てが美しく見える。それは平和を奪われた鎖羅の意識なのか、何もかもが新しいニナの意識なのか、知りえる方法はない。