第8章 八夜
身体中に管を取り付けられた少女はベッドから半身を起こし、窓の外を見つめていた。年相応のあどけない表情は到底犯罪者だなんて思えない。
サクラはゆっくりと歩み寄り、椅子へ座る。
「……こ、こんにちは!」
「あぁ、こんにちは。どちら様ですか?」
「えっ…………と」
(友達?…はなんか違うし、忍です!って言って一体今のこの子にわかるのかしら……)
「私、春野サクラ!同じ歳の子が入院してるって聞いて、友達にな、なりたいなぁ〜!なんて…………」
少女はキョトンとした顔で見つめる。サクラは両手を頬の横で組みながら、冷や汗をかく。
そんな心配とは裏腹に、少女は優しい笑みを浮かべた。
「私、ニナっていいます。本当の名前ではないんですが、そう呼んでください」
「ニナ、ニナね!よろしく、ニナ」
「よろしくお願いします」
沈黙が流れる。記憶をごっそり無くしているのだから世間話なんて出来ないし、察しの通りサクラは話題に困っていた。
「サクラさん、あの顔の様な彫刻はなんですか?」
「えっ?」
指さした方向には火影の顔岩。木の葉の最大の特徴でもあるもので、知らないものは居ない。
「あれはね、歴代の火影様達がここの里をいつも見守っているよって事で彫ってある顔岩なの。里の子供たちは一回は火影を夢見るのよ」
「火影……?」
「うん。あの…一番左の初代火影様が考案した里システムのひとつなの。火影は里の顔として、平和を守っているわ」
「面白いですね……じゃあ、あの顔の中には人が?」
プッ、とサクラは吹き出した。
「〜〜〜っ、あはは!違うわよ!あくまでも例えの話!ニナさんって面白いわね〜!」
「あっ、ああ…!」
笑われた少女は一気に顔を赤くする。
目尻の涙を拭いながら、サクラは椅子から立ち上がった。