第5章 〜知りたい〜
この時、桜奈の脳裏をよぎっていたのは
『運命』と言う言葉だった。
家康が同じ思いで自分を見ていたと聞き
嬉しいと感じている、自分がいた。
この先、何かが変わっていくような
期待に溢れて、ドキドキしていた桜奈。
でも、そんな淡い期待は一瞬で
消え去ることになった。
家康は、食器棚な扉を静かに閉めながら
ほとんど無意識で
『これが、本物の運命の出会いだったら
良かったのにな・・・残念』
囁くほど小さな声で呟くと
寂しそうな表情をした。
『えっ?』と桜奈。
『いや、何でも・・///』と家康。
(もっと、早く会いたかったな
そしたら・・・)
微かな呟きだったが、桜奈は
その呟きを、聞き逃していなかった。
その後に見せた家康の表情も
とても寂しく、切なく感じた桜奈。
(なんか、徳永さん、切なそう・・・
『だったら、良かったのに、残念』って言ってた・・
じゃ、この偶然は徳永さんには
ただの偶然だったって、話なんだ・・
勝手に運命って感じたのは、私だけ・・
しかも、残念って何?彼女いるのかな?)
自分でも驚くほど冷静に、家康の言葉を
分析していた。
それから、酷く胸が締め付けらる痛みを感じ
油断したら泣きそうになっていた。
(そっか、そうだよね。徳永さんにとっては
ただの偶然なんだよね・・・それ以上でも
それ以下でもない、ただの偶然。)
家康が偶然だとしか思ってないと
納得しようと、すればするほど
この出会いには、何の意味もないと
念押しされ、もう一度会いたいと思った
特別な気持までが、ただの恥ずかしい
勘違いでしかなかったと、否定されて
いるようで
悲しく、切ない表情
になって行く桜奈。