第27章 〜番外編その4〜
家康が心配するのも無理からぬことだった。
愛花の流産騒ぎの時、政宗が言っていたのだ。
パティシエは見た目程、華やかな職業ではない。
女性でも、20キロ、30キロの小麦粉を
運んだり、大量の生クリームを作るための
器具類は、思ったよりも重量がある。
それに、付け加え出店に向けた準備等
休ませたくて、いくら言っても愛花は
大丈夫と聞き入れないまま、無理をして
自分もそれを力づくで、止められなかったと。
いわば、職人気質な部分が出ると
相当頑固になるから、お前も気をつけろよと
忠告されたことがあったのだ。
その時は、ふーんそんな感じなのかと
ただ聞き流していたが
今、まさに政宗が懸念した状況になっていた。
『だってさ、仕事で重いもの持ったり
するんでしょ?
体力勝負の仕事だって聞くし・・』
内心では、仕事をセーブして欲しいと思う家康。
だが今の職業は、出会った頃からの
桜奈の夢でもある。
夢を叶えて、活きいき仕事をしている桜奈に
仕事を辞めて欲しいなど、とても言える
はずもなかった。
『大丈夫だよ。愛花さんも1番大事なのは
お腹の赤ちゃんだって、だから絶対無理は
させないし、しないでって言って貰ってる。
無理なんてしないし・・気をつけるもん・・』
(仕事続けたいって言うのは、わがままに
聞こえるのかな?
そうなら、なんか悲しいな・・)
家康の気持ちを感じて、そう思う桜奈。
訴えるように、そう言う桜奈だったが
家康もまた、桜奈の声に張りがなくなり
自分の発した言葉にがっかりしているのが
伝わってきた。
慌てて『うん。とりあえず今日帰ったら
また、ちゃんと話しよう。じゃ、仕事戻るから
一旦切るね』と話を途中で終わらせてしまった。
電話を切ったあと、頭を抱え込む家康。
(やば、また先走って、早まった)と
心配の暴走の制御が効かない自分に
呆れ、はっーと、大きなため息をついた。