第26章 〜番外編その3〜
他の武将達も家康の今の気持ちは
理解できた。
桜奈への執着と言えるほど
今も昔も、桜奈だけを想っている。
家康の様子を見ていた信長は
『家康、今日はもうよい。
下がって少し休むがよい』
(今日は、使い物になるまい
桜奈とゆっくり語り合え・・)
信長にそう言われた家康は
信長を見て、クッと表情を歪めた。
見透かされた上での、配慮だと察し
また、涙が出そうになるのを止めた。
徐に立ち上がると
深々と一礼し
『では、これにて』と
大広間を出でいこうとしたが
途中でピタッと立ち止まると振り返りながら
『栞、ありがとう』と流すように
穏やかで優しい笑みを浮かべた。
いつも、苦虫を潰したような
仏頂面の家康。
桜奈が旅立ってからは
滅多に笑うことも無かった。
一体、何年ぶりに
家康のあんな穏やかな笑顔を
見ただろうか?
その場にいた全員が驚き
目を見張る。
『う、うん!』
(家康が、笑ってる。涙出そう)
と思いながら、既に涙目でそう笑って
答えた。
自室に戻った家康は、襖をパタンと
閉めると、襖にもたれかかりながら
ズルズルと崩れ落ちて行く。
寄り掛かったまま、また写真を眺めた。
(桜奈、本当に未来に生まれ
変わったのか?夢は叶ったのか?
会いたいよ・・・会いたい・・・)
写真の桜奈を指でなぞりながら
そう、心で呟く家康。
それから、写真を額に当て
祈るように俯き、肩を震わせながら涙した。
家康の心は、桜奈の願いが
叶ってよかったと単純には喜べずにいた。
何故なら、この写真の桜奈は
桜奈の生まれ変わりだとしても
自分と共に生きた桜奈ではない。
複雑な思いが、打ち寄せる波のように
よせては、かえす。
新しい桜奈に生まれ変わったのなら
自分が愛した桜奈は、もう
この世界の何処にも、本当に居ないのだと
突きつけられた気がしたのだ。