第26章 〜番外編その3〜
やっと我に返った家康は、改めて
巾着を眺めた。
我に返ったと言っても、周囲からは
どう見ても心ここにあらずの
放心状態に見える。
巾着には、小さな着物の女の子の
マスコットが着いていた。
着物の柄が、桜奈が栞から
仕立ててもらった小花柄の
お気に入りの着物に似ていた。
それから、巾着を開けると
プリクラと紅葉らしきものが
入っていた。
(紅葉?)
手に取ると、明らかに紅葉とは違うが
紅葉をリアルに象ったメモ用紙。
裏を返すと、よく栞が書いている字に似た
字で何かが書かれてあるが
よく分からなかった。
『ねぇ、栞。これ字が書いてあるんだけど
なんて書いてある?』
やっと口を開いた家康に
『あっ、そうだった!』と立ち上がり
家康の側に行き
『これ、妹からの手紙。
私ね、桜奈さんからの形見分けで
もらった、あのつげ櫛を妹にあげてきた』
『えっ?』と驚く家康に
『うーん、あげてきた?と言うより
桜奈さんに、返してきたって
言った方が、しっくりくるね』と
にっこりし
『手紙にはね、家康様、つげ櫛を
ありがとうございます。
大切にします。
未来でまた必ずお会いできますって
書いてあるの。この巾着は、妹が
家康の為に作ったんだよ。』
『未来で・・・』
(栞が、あんなに大事にしてくれてた
櫛を渡したってことは・・・本当にあんたは
桜奈なのか?)
『うん、未来で。私の生まれた時代で・・
それからね、言ってたよ。
家を守るって言う約束は、果たされて
徳川家は、現代にもちゃんと存続してます。
ちゃんと見届けましたって。』
そう言って、良かったねと言う表情で
優しく微笑む栞が、写真の桜奈と重なった。
『そうか・・』
(家は、続いてるんだ・・・
500年続いてるのか・・家を守る約束は
ちゃんと守れたってことか・・)
胸の奥から、こみ上げてくる熱い想いとともに
目頭も熱くなってくる。