第26章 〜番外編その3〜
キリッとした表情で、そう挨拶する
栞には、信長の妻として過ごしてきた中で
身についた、女主人としての風格が滲み出る。
家臣一同
『ハッ!』と頭を下げ、女主人に
礼を尽くす。
二十歳で、訳の分からぬまま
戦国時代に飛ばされ
不安で死にそうな顔をしていた
栞は、もうどこにもいない。
それだけの月日が、流れて
それだけの自信と
それだけの信頼関係を
築き上げてきた証。
その姿を満足そうに眺める信長。
すると、栞は
『さてと』と、堅苦しい挨拶は済んだと
ばかりに、手をぱんと打ち合わせると
『皆さんに、向こうのお土産を
持ってきたんです』と、さっきまでの風格は
どこへやら、いつもの栞らしい笑顔を
見せると、隅に置いてあった風呂敷を
広げた。
それから、一人一人にお土産を渡して回る。
『はい、これは信長様に!でも食べすぎには
気をつけて下さいよ』と手渡したのは、光月庵の
季節の金平糖詰め合わせ。
『おぉ、これはまた色鮮やかな金平糖じゃ』
と嬉しそうにする信長。
『はい、これは光秀さんに』と
手渡したのは、粽と粽を作るときに
使える、どんこと干し肉と乾燥させた
笹の葉数十枚入りのもの。
『これは?』と、どんこと干し肉を手や笹の葉を
交互に手にしながら、光秀は不思議そうに眺めた。
『向こうから持ってきた粽は、日持ち
しないから、早めに食べてもらって
あとは、政宗に作ってもらって
好きな時に、粽を楽しんで下さいね』
と、にっこりする栞。
『そうか、それは、有難い。楽しみだ』
と嬉しそうにふっと笑う光秀。
『はい、これは秀吉さんに』と
手渡したのは、高級梅とお粥にトッピング
する瓶詰め数種類
『秀吉さん、お粥好きでしょ?
お粥にちょこっとのせて食べると
美味しいから試してみて!』と
手渡した。
『おっ!いいのか。ありがとう。美味そうだ!』
と、ニカッと笑う秀吉。