第26章 〜番外編その3〜
『ああ、すまん、すまん。
この写真とやらで、輪廻転生を
確信してな。縁とは、面白いと
思うたのだ。
この男は、桜奈の父であった
上杉鷹山と言う武将に似ているし
この女子は、鷹山の奥方で桜奈の
母でもある千殿にそっくりだ。
そして、話したことはなかったが
桜奈には、姉がいた。
そやつは、わしの許嫁でもあった。
わしがまだ、十ぐらいの時の話だ。
だが、その赤子は生まれて十月も
立たぬうちに病で亡くなったのだ。
破談になったことで、上杉家は織田家と
政略的に同盟を結べなかった。
そのうちに勢いづいた今川に押され
鷹山は今川の傘下に入るより民を守る術が
なくなり、結局は、今川に裏切られ
滅ぼされた。
そうか・・・子煩悩な貴様のことだ
娘二人の成長を見届けられなかった無念で
また、やり直すことにしたのか・・・?』
懐かしむような表情を浮かべながら
写真の中の鷹介に語りかけるように
そう呟く信長。
無慈悲の代名詞のように
その人間性を後世へと語り継がれる
織田信長が、こんなにも優しい人だと
誰が知っているだろう?
天下布武の旗頭となって
世を治めたいのは
戦狂いなわけでも
名誉や権力の誇示でもなく
苦む民を救いたいから。
数多の命の犠牲の上に君臨する
己の罪深さなど、誰に責められ
咎められずとも、己が一番よく
分かっていながら、是非に及ばずと
非情の鉄仮面を被り続ける信長。
そんな信長に、写真の鷹介は
『お前にも、いずれ幸せな生は
巡って来る』と言っているように思えた。
だが、信長は
(わしは、地獄行き止む無しなのだ。
時を超えてまで、また栞を貴様から
攫ったのだからな)と
心で呟き、ふっと笑った。
写真を見つめ、ふっとまた笑う信長に
『信長様?』と覗き込む栞。
ふと、我に返り、写真を栞に戻した。
それから徐に栞を抱き寄せると
『いや、なんでもない・・・』
(わしには貴様さえいれば、充分だ・・・)
と答えた。