第26章 〜番外編その3〜
だが、家康が家庭教師に来てくれた時に
巾着の作りの理由を話し
出来上がった品の感想を聞いたが
何故か、急に不機嫌になりムスッとしながら
『いいんじゃない、よくできてるよ。
ふーん、向こうの家康にプレゼントねぇ・・』
と、想像の中とは全く違う反応に
しょぼんとしてしまった。
栞に相談すると『ぷっ』と吹き出し
『前世の自分に嫉妬かよ。
やっぱ、間違いなく家康だわ』とボソッと
呟いた。
『えっ?何て言ったのお姉ちゃん?』
と、聞き返す桜奈に
『あっ、ほら。上手にできてるから
自分も何か、作って欲しかったのかもね?
作ってとは、言えなかっただけじゃない?』
と誤魔化した。
『そうかな、だって家康さん、巾着なんて
使わないでしょ?』
(巾着が欲しそうには見えなかったけどな・・)
なんだか納得いかない桜奈に
『違うわよ、巾着じゃなくて。
桜奈が自分の為に作ってくれる
ものが欲しいって話よ。
この前も言ったでしょ?なんだっていいのよ。
例えば、マフラーだって、帽子だって
ハンカチだって、なんだっていいの。』
『そうなのかな?』と、家康の不機嫌になった
理由と今一つ、繋がらない桜奈に
『そうなのよ』と栞は、力強くそう返した。
楽しい時間は、あっという間に過ぎて行くもの。
月日は巡り、上杉家の一家団欒も
親子、姉妹、水入らずの時間も
明日からの、旅行で最後になる。
完成した着物を桜奈に羽織らせ
確認する栞。
千里も鷹介も
『うん、やっぱり綺麗だね。流石、プロだな』
『ほんとね、凄く大人っぽくて
可愛いより、綺麗なお姉さんって
感じね。縫製も細やかで
ほんと上手よね』と口々に褒めてくれた。
別れのときは、すぐそこまで
近づいて来ていたが、1分1秒を
惜しむかのように、上杉家一人一人は
『家族』を味わい、笑顔が絶えることは
なかった。