第26章 〜番外編その3〜
『お姉ちゃん・・・』
一目みて、心奪われたのは確かだった。
思い入れのある、大切なつげ櫛。
戦国時代の桜奈が
短い生涯の中で、どれほど愛されて
いたのだろうかと想像してみた。
前世の記憶があるわけでもないし
自分の前世が桜奈さんだと
確証があるわでもない。
でも・・きっと、凄く愛されていたのだろうと
自分の中から湧き上がる温かな気持ちに
胸がいっぱいになってくる。
桜奈は、栞に渡された櫛を
手にしながら、そんな感覚になっていた。
『ほんとにもらってもいいの?』と
確認する桜奈に、ニッコリ頷く栞。
『ありがとう。大切にするね!』そう言って
つげ櫛を胸に引き寄せ抱きしめ
(ずっと、ずっと大切にしなきゃ・・・)
そう心で呟いた。
さっきまでの、息ができない程の悲しみが
不思議と和らぐ気がした。
(家康さんも、私を好きだと言ってくれた
選んではもらえなかったけど
私を想ってくれてたことに
嘘は、なかった・・・)
そう思うだけで、また胸が締め付けられる。
(もっと一緒にいたかったな。
もっと側にいたかったよ。
桜奈さんを失ってから
貴方もこんな苦しい日々を送ってたのですか?)
愛しい人を失ってしまった、同じ立場として
戦国時代の家康に思いを馳せた。
そっと心で、つげ櫛にそう語りかける桜奈は
家康と同じ痛みを、分かち合っているような
気分になってくる。
『戦国時代の家康さん、きっと辛かったよね』
ぽそっと呟いた桜奈に
『うん、桜奈さんを亡くした直後は
見る影もなく憔悴してたよ。
でもね、信長様に貴様には果たすべき
桜奈との約束があるのではないのか?
って、喝を入れられてね。
今はそれを支えに、胸を張って来世の
桜奈さんに会うんだって
自分を鼓舞しながら生きてるんだと思う。』
切ない笑みを浮かべながら、そう語る栞。