第26章 〜番外編その3〜
突然、手渡されたつげ櫛だったが
その櫛を見た途端、悲しみに変わって
とても懐かしい切なさが込み上げ
また涙が流れる。何故か初めて見た気が
しなかった。
涙を拭いながら
『綺麗な櫛だね。向こうの時代のもの?』
鮮やかな紅葉の細工に釘付けになる桜奈。
とても、とても、大事なもの。
紅葉の細工を指で優しく撫でながら
直感でそう感じる。
『そう。向こうの時代のものだよ。
それ、桜奈にあげるよ。』
『えっ?お姉ちゃんの大事なものだよね?
そんな大事なものもらえないよ。』
(どうして、急に?凄く素敵な櫛なのに)
そう言って、栞に返す桜奈。
受け取った栞もまた、愛おしそうに
櫛を撫でながら
『これね、桜奈さんの形見なの。
家康が桜奈さんに送ったもの
だったんだけど
桜奈さんのお気に入りでね・・・
ずっと前に肌身離さず持ってたみたい。
亡くなるちょっと前に、私に渡して欲しいって
家康に遺言してたみたでね・・・
家康が私に預けてくれたの。
家康が桜奈さんに送った
もう一つのお気に入りの簪は
今も家康が大事にとってあるみたいよ。
私も、これをずっと桜奈さんだと
思って、今まで肌身離さず
身につけてたんだ・・』
懐かしむように、静かにそう語る栞。
『そんな、大事なものなら尚更
もらえないよ』
少し、落ち着いたようでやっと涙が止まった
桜奈は、遠慮するようにそう言った。
だが、栞は櫛を桜奈の手に握らせ
上から自分の手で包むようにしながら
『いいの。これはあげるって言うより
返す気分なの。家康の代わりに
桜奈に返すの。家康ならきっと
そうして欲しいって言うと思うんだ。
この時代でも、出会ってくれて
また、好きになってくれて
ありがとうって・・・
まぁ、本家本元の徳川家康からの
お礼だと思って、もらってあげて。
徳川家康の大ファンなんでしょ?
帰ったら、私がちゃんと報告しとくから』
ニコッとする栞。