第26章 〜番外編その3〜
夕飯の準備ができたと
桜奈を呼びに行った栞。
コンコンとノックしたが返事はなく
『桜奈、入るわよー』とドアを開けた。
中に入ると、桜奈はどれほど泣いたのか
目元が擦れて赤くなり、机の上に飾ってあった
徳川家康の小さなぬいぐるみを抱きしめ
蹲るようにしながら、眠っていた。
家に帰るまで、泣きたいのをどれほど
我慢していたのだろうか。
桜奈の姿に、胸が苦しくなってくる。
(どうして、上手くいかないんだろうね。
辛かったよね、桜奈・・・)
ベッドの傍に座り、泣き疲れて眠る妹の
頭をそっと撫でた。
『んっ・ん・家・・康・・さん』寝言で
そう言って呟くと、眉間にシワを寄せながら
苦悶の表情を浮かべ、また涙を流した。
桜奈の涙をそっと手で拭って
あげながら、分かっていたこととは言え
想いが届かないのは、ただでさえ辛いはず。
それが、500年越しの想いなら
尚更だろう・・・それならいっそ
出会わないほうが、桜奈は
幸せだったんじゃないだろうか?
桜奈を見つめながら
そんな想いが湧き起こってきてしまう。
でも、二人はずっと会いたかったはず。
出会ってまた恋してしまうと
宣言していた通り、変わらない絆を
証明するかのように
やっぱりお互いに恋に落ちたのだ。
きっと、簡単には癒えはしないだろうし
簡単には埋まらない心に空いた穴の
ようになってしまうかもしれない。
それでも、今は静かに見守りながら
桜奈の誕生日まで
支えになってやれたらと
そう思う栞だった。
眠る桜奈にブランケットを
かけ、静かに退出した。