第24章 〜番外編その1 〜
高架を降りて行き、どんどん海が近づいて来る。
信長は、詩織の反応を見ながら
慎重に海に連れてきた。
成長した詩織に再会した時は
水にトラウマはないと語ってはいたが
実際に溺れた日から海に来ていないのなら
どんな反応を起こすかは
本人ですらわからないだろうと思った。
だが、海岸線を走り始めた今も
窓に張り付くように、キラキラした目で
海を眺めている姿をみて、大丈夫そうだと
安堵した。
『先生、窓開けていいですか!』
待ち合わせの駅で見せていた大人の女性
設定は、喫茶店からはすっかり忘れて
いるらしく、無邪気にはしゃぐ姿は
やはりまだ高校生の女の子なのだと
信長には思えた。
『別に構わんよ』
そう許可をもらい、ウィーーーンと
窓が開いて行くと、潮の香りが
風とともにサッーと車内に入り込んできた。
深呼吸する様に『ああ、潮の香りがする!』と
胸いっぱいに吸い込む詩織は
うっとりと目を閉じていた。
海には、本当は何度でも来てみたかった。
でも、溺れた翌年、海に行きたいと
言った時に見せた両親の不安な顔で
行かない方がいいと諭した。
それ以降は、行きたいとは
言い出せなくなった。
自分が、両親にどれだけ心配をかけたのか
がその時の一瞬で分かってしまったからだ。
けれど、反面では自分を助けてくれた人に
海に行けばもう一度、会えそうな気がして
それ以降、海に行ってみたい衝動も
ずっと抱えてきたのだ。