第24章 〜番外編その1 〜
詩織の頬に、そのまま手を伸ばし
微かに撫でると
『俺も、お前にまた会いたい。』と
にっこりと微笑む、その表情は
とても、嬉しそうに見えた。
二人のキラキラするような場面を
遠目で見守っていた店のマスターも
安堵したように、微笑んだ。
(先生も、生涯ただ一人の人を
見つけたみたいだぞ、よかったなお前。)
写真立ての中で、麦わら帽子に
シャベルを持って優しげに微笑む
一人の女性。
マスターの最愛の妻で、信長の元患者。
まだ、新米だった信長が医師になって
初めて看取った人だった。
『主人の入れるコーヒーは、私には
世界一、美味しいの!先生もよかったら
お店にいらして』そう、誘われて
毎週のように通うようになった。
信長が心からホッと一息つける、秘密の場所。
来る時は、いつも一人で
今二人が座る席に座り、ただぼっーと庭を眺め
ていることが多かった。どこか心ごと遠くにある
姿は、まるで会うことの叶わない人に想いを
馳せているかのようで、寂し気に見えたりもした。
何故、詩織を自分にとっては特別な
この場所に連れてこようと思ったのか
信長自身もよく分からなかった。
ただ、お気に入りの店と庭を見せなかった
だけなのか。
それとも、心の中に今も生き続ける
愛しい人達に詩織を会わせたいと
思ったからか・・・
頬に触れる信長の手は大きくて
温かく、とてもホッとする気持ちになる詩織。
ドキドキしながらも、ずっと触れていて
欲しくなる。
そんな、二人だけの世界に
フワッといい香りが立ち込めてきた。
その香りに刺激されたのか
静かな店内に響き渡るように
詩織のお腹がぐぅぅーっと鳴った。
ロマンティックな場の空気が一瞬で
ガラガラと壊れて崩れ去っていく。
お腹の音に、ハッとし
あわあわする表情で、顔を真っ赤にする
そんな詩織があまりに可愛くて
堪えきれない様子でクックックと
肩を揺らす信長に
どうしたらいいか分からず
パクパク口を動かす詩織。
そんな微笑ましい二人の元に
『お待たせしました』と
店自慢のナポリタンが運ばれてきた。