第22章 〜ただ一人の人〜
そして、二人同時に『あの・・・』と
ハモった。
ぴったりなタイミングで同時に言葉を
発し、一瞬驚いたが、顔を見合わせ
ぷっと吹き出した。
『気が合うね。で、何?先に言って』
『いえ、家康さんから、どうぞ・・・』
と、家康の方に両手を差し出し
恥ずかしそうに俯く桜奈。
『そぉ、じゃ遠慮なく』
そう言うと、差し出された桜奈の手を
引っ張り自分の胸の中に、すっぽりと収めた。
それからぎゅーっと力いっぱい抱きしめると
『桜奈・・・
(俺と出会ってくれて
俺を好きになってくれて)
・・・ありがとう』
苦しいくらい、抱きしめられた桜奈は
えっ?と驚いたが、それ以上に嬉しかった。
そして、ずっと我慢していた寂しさが
どっと溢れてきた。
家康のシャツを掴むと、頭を胸に押し当て
咽び泣く桜奈。
(好き・・好き・・大好き・・・
離れたくないよ・・・)
小刻みに身体を震わし、押し殺した
声にはならない言葉を叫ぶ桜奈。
(ごめん。必ず、けじめをつけてから
もう一度、迎えに行く。待っててなんて
言えないけど。今度は堂々と
桜奈の隣にいられる自分になって
必ず迎えに行く・・・)
桜奈の頭に頬擦りするように
しながら、苦しそうな顔になる家康。
家康にとって何も告げずに
今、桜奈と離れ離れになるのは
賭けに等しかった。
融通のきかない自分がほとほと
嫌になる。
このまま、自分の欲望のまま、桜奈との
関係を維持できたら、どんなに幸せだろう。
けれど、そんな自分を桜奈が許すとも
桜奈を幸せにできるとも
どうしても思えなかった。
こんな自分が、このまま側にいるのは
桜奈には相応しくない
そう、思ってしまう。